エリート主義は、特定の集団が社会的、政治的、経済的な権力を集中させる考え方を指します。この思想は、古代から現代に至るまで様々な形で存在してきました。
本記事では、エリート主義の定義や歴史的背景、経済的・政治的・教育的な側面に分けてその種類を探ります。
また、現代社会におけるエリート主義の影響、特に社会的な分断を生む要因についても具体的なデータや事例を交えて解説します。さらに、最近の研究結果やエリート主義に対する批判と支持の意見を取り上げ、幅広い視点からこの問題を考察します。
エリート主義とは(定義)
エリート主義とは、特定の人々が社会的、政治的、経済的な権力を有し、他者に対して優越した判断を下すことを信じる考え方です。
この思想は、エリートが社会のリーダーシップを担うべきであるという前提に基づいています。
エリートの定義
ここでの「エリート」は、「高い教育、社会的地位、富などを持つ個人または集団」を指します。
エリートは、一般市民に対して、より良い選択を行う能力を有するとされますが、その権力の集中は時に問題を引き起こします。
エリート主義の目的
エリート主義の目的は、社会をより良く導くことにあります。しかし、時にこの思想は権力の不当な集中を生む原因となり、民主主義の価値観に反することもあります。
エリート主義の歴史的背景
エリート主義は古代から存在しています。その歴史的背景を振り返ります。
古代からのエリート主義
古代社会において、エリート主義は支配階級と労働階級の明確な分離を基にしていました。王族や貴族が社会を支配し、知識や教育を独占することで、特権的な地位を維持していました。
近代の台頭と変化
近代に入ると、教育の普及や市民権の拡大により、エリート主義の形は変化します。特に、民主主義が浸透する中で、エリートの役割とその正当性が再評価されるようになりました。
民主主義の歴史については、こちらの記事でくわしく解説しています。
現代のエリート主義の再評価
21世紀においてもエリート主義は存在し続け、経済格差や教育の不平等が新たな問題を引き起こしています。これにより、社会全体の信頼関係が揺らぐことが懸念されています。
エリート主義の種類
エリート主義は大きく3つの種類に分けられます。
経済的エリート主義
経済的エリート主義は、「富を持つ者が経済的決定に影響を及ぼし、社会の資源を支配する状況」を指します。
経済的格差が広がる中で、富裕層の影響力が強まる傾向があります。これにより、一般市民は政治的決定に参加する機会が制限されることがあります。
政治的エリート主義
政治的エリート主義は、「特定の政治家や官僚が政治的な意思決定を独占する現象」です。このような状況では、一般市民の意見が無視され、民主主義の機能が損なわれる可能性があります。
教育的エリート主義
教育的エリート主義は、「高度な教育を受けた者が社会的地位を有し、他者に対して優位性を主張すること」を意味します。これにより、教育機会の不平等が広がり、社会的な流動性が低下します。
現代社会におけるエリート主義の影響
現代社会においてもエリート主義は存在します。その影響や実例を紹介します。
さらにくわしい解説はこちらの記事で行っています。
社会的分断の現実
現代社会では、エリート主義が社会的分断を生む要因となっています。たとえば、経済的な格差が拡大し、貧困層と富裕層の間に明確な隔たりが生じています。これは、地域間の経済的な不均衡を引き起こすことがあります。
政治的極端化の傾向
エリート主義は政治的極端化を促進することがあります。特に、エリートに対する不満が高まると、ポピュリズムや反エリート運動が台頭することが見られます。このような現象は、民主主義の質を低下させる恐れがあります。
※関連記事:ポピュリズムとは?現代の政治思想と日本への影響を簡単に解説(エリート主義との違いなど)
教育と雇用の機会格差
教育の機会が不平等であることは、エリート主義の影響を強く受けています。特に、経済的に恵まれた家庭の子どもがより良い教育を受ける一方で、貧困層の子どもは限られた選択肢しか持たない状況が続いています。このような教育の不平等が、さらなる経済的格差を生む要因となります。
現代のエリート主義の実例
現代でもエリート主義は至るところで見られます。以下に、日本を含めた3か国の例を挙げます。
フランスのエリート主義
フランスでは、与党・野党の多くの要職が国立行政学院(École Nationale d’Administration、ENA)の卒業生で占められています。ENAはフランスのエリート官僚を育成するための学校で、卒業生は政府や公的機関の要職に就くことが多いです。
この現象は、フランスの政治におけるエリート主義を強化し、政治的決定に対する市民の参加を結果的に制限する要因となっています。
参考:東洋経済オンライン
日本の政界におけるエリート主義
日本の政治においては、特に自民党の党内でのエリート主義が顕著です。
自民党内には、長年にわたって党の中枢にいる「派閥政治」が存在し、特定の派閥のリーダーや幹部が政治の大半を占めています。この構造によって、新しいアイデアや視点を持つ若手政治家の台頭を難しくし、結果的に政治の多様性を欠いた状況を生み出しています。
たとえば、特定の派閥に所属しない議員は、重要な役職に就くことが難しい場合が多く、政策決定のプロセスにおいても影響力が制限されることがあります。
※関連記事:政治派閥とは:派閥のメリット・デメリットや無派閥との違いを解説し、派閥の歴史を振り返ります
※関連記事:文部科学大臣の出身大学一覧:教育のトップは国公立大学や難関大学の出身者が多いのか?
中国におけるエリート主義の例
中国の共産党体制においても、エリート主義は顕著です。党の上層部は、党内の「エリート」たちで構成され、一般市民からの参加や意見はほとんど反映されません。
特に、党の指導者は厳格な選抜プロセスを経て選ばれるため、権力の集中が進み、民主的なプロセスが著しく制限されます。
この体制は経済成長と引き換えに社会的な不平等を助長し、一般市民の権利や自由が制約される要因ともなっています。
参考:日本国際問題研究所
エリート主義に関する最近の研究結果
エリート主義がもたらす影響について、以下のようなことが分かっています。
経済格差の進行
最近の研究によると、経済格差は過去数十年で著しく拡大しています。特に、所得の上位10%が全体の収入の大部分を占める状況が続いています。これは、エリート主義の影響が強まっていることを示しています。
教育の機会不平等
教育機会の不平等も深刻な問題です。OECDの調査によると、家庭の経済状況によって教育の質が異なることが多く、これは将来の就職機会にも大きな影響を与えます。
このようなデータは、エリート主義がいかに社会に深刻な影響を及ぼしているかを物語っています。
参考:OECD日本政府代表部
社会的流動性の低下
社会的流動性が低下することで、エリートと一般市民の間の格差が固定化されています。最近のデータでは、親の経済的背景が子どもの将来の成功に強く影響することが明らかになっています。
このような現象は、教育と経済の二重の格差を生んでいます。
エリート主義に対する批判や支持の意見
エリート主義にはいくつもの弊害もありますが、批判だけでなく賛成意見もあります。
批判的視点
エリート主義は、民主主義の根幹を脅かすとする批判が多くあります。特に、特権的な立場にある人々が権力を集中させることで、一般市民の声が無視されることが懸念されています。
また、社会的な流動性の低下が、貧困層の人々の希望を奪う要因となることも指摘されています。
支持的視点
一方で、エリート主義に対する支持の意見も存在します。
支持者は、専門的知識や経験を持つエリートが社会の問題を解決するためには不可欠だと主張します。彼らは、エリートによるリーダーシップが、社会の発展に寄与する可能性があると考えています。
中間的な見解
エリート主義に対する意見は二分されていますが、中間的な見解もあります。特に、エリートの知識と経験を活かしつつ、一般市民の声を反映させるためのシステムが必要だという意見が増えています。
こうした考え方で社会全体の協力がうながされ、エリート主義の弊害を軽減することが期待されています。
まとめ
エリート主義は、社会の構造や価値観に深く影響を与える重要なテーマです。
経済格差や教育の機会不平等を生む要因としての側面は、現代社会において特に注目されています。エリートに対する批判と支持の両方の意見が存在する中、エリート主義がどのように社会の分断を生み出し、またそれに対してどのような解決策が考えられているのかを理解することが求められています。
本記事が、エリート主義についての理解を深める一助となれば幸いです。
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