小選挙区制は、1つの選挙区から1人の議員が選出される選挙制度です。日本をはじめ多くの国で使用されているこの制度は、選挙制度の中でも非常に重要な役割を果たしています。
そこでこの記事では、小選挙区制のメリットとデメリットについてくわしく解説し、選挙制度に対する理解を深めることを目指します。
小選挙区制のメリット
小選挙区制は民主主義的な選挙を実現するうえで欠かせない制度です。具体的には以下のようなメリットがあります。
政治的安定性を確保しやすい
小選挙区制の最大のメリットの1つは、「政権の安定を確保しやすい点」です。
この制度では、各選挙区で1人しか当選できないため、勝者がすべてを獲得する「勝者総取り」の構造になりやすいです。このため、複数の政党が存在しても、結果として大政党が有利になりやすく、議会での過半数を確保しやすいです。
その結果として政権交代が少なくなり、長期的に安定した政府が誕生しやすくなります。
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有権者の意思を反映しやすい
小選挙区制では、1つの選挙区から1人しか当選しないため、選挙区ごとの有権者の民意が明確に反映されやすいです。
候補者が多数いる比例代表制と異なり、選挙民は直接的に自分の地域代表を選ぶため、選出された議員は地域の意見を強く反映することができます。
候補者と有権者との間に密接な関係が築かれる
選挙区が1つに限られるため、候補者と有権者の関係が密接になりやすいです。
候補者は自分の選挙区の有権者に対して直接アピールする必要があり、選挙区内での活動が重要になります。その結果、地域社会の課題に詳しくなり、地元に密着した政治(=地元に必要な政策)が実現しやすくなります。
有権者も自分たちの声が政治に届くと実感すると、積極的な政治参加につながりやすくなります。
投票する政党を選びやすい
小選挙区制では、大政党が優位に立ちやすいため、政党数が減少しやすいです。そのため「二大政党制」が確立されやすくなり、選挙後の連立交渉や政権の不安定化を防ぐことができます。
また、有権者にとっても選択肢がシンプルになり、政策実現を期待できる政党を選びやすくなります。
スタディサプリENGLISH(新日常英会話コース)小選挙区制のデメリット
逆に、小選挙区制には以下のようなデメリットも存在します。
少数派の意見が反映されにくい(多様性の確保が課題)
小選挙区制の最大のデメリットの1つは、「少数派の意見が反映されにくい点」です。
勝者総取りの制度のため、各選挙区で2位以下の候補者に投票した人々の意見は、選挙結果にはほとんど反映されません。
少数派や新興政党の候補者が当選しにくくなると、国会全体で多様な意見が十分に反映されない恐れがあります。
票割れが起こりやすい
小選挙区制のデメリットの一つは「票割れ」が起こりやすくなる点です。特に票割れが起こりやすいのは「野党が共闘できない場合」です。
たとえば、複数の野党候補者が同じ選挙区に立候補すると、有権者が支持する候補者が分散し、それぞれの候補者の得票数が減少します。その結果、票が割れてしまい、相対的に強い候補者や与党候補者が当選しやすくなります。
このように、野党が連携していないと、票割れが選挙結果に大きな影響を及ぼすことがあります。
死票が多くなる
小選挙区制では、2位以下の候補者に投じられた票が「死票」となります。
死票とは、「選挙結果に影響を与えない票」のことで、特に少数政党や新興勢力に投票した有権者の票が無効化される形になります。
死票が多くなると、結果的に選挙の公正さや民意の正確な反映に疑問が生じることがあります。
大政党に有利すぎる
小選挙区制は、基本的に大政党に有利に働く制度です。1つの選挙区で勝利すれば、その全ての票を獲得するため、少数政党は選挙で勝つのが非常に困難です。
このため政治的多様性が失われる可能性があり、大政党が長期的に政権を独占するリスクがあります。政権交代が起こりにくくなるという側面もあります。
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選挙区ごとの競争が過熱しやすい
小選挙区制では1人しか当選できないため、選挙戦が非常に激しくなる傾向があります。
この結果、候補者同士の誹謗中傷やネガティブキャンペーンが激化しやすくなり、有権者が真に求めている政策論争が後回しにされる可能性があります。
また、選挙資金の投入が過熱しやすく、経済的負担が増えることも問題視されています。
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小選挙区制と比例代表制との比較
小選挙区制は比例代表制としばしば比較されます。
比例代表制では、政党の得票率に応じて議席が分配されるため、少数政党にも議席を得るチャンスがあります。一方、小選挙区制は先述の通り大政党が有利なため、政治の安定を求める一方で、多様な意見が反映されにくくなる可能性があります。
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小選挙区制と比例代表制の違い
小選挙区制と比例代表制には以下のような違いあります。
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小選挙区制導入までの選挙制度改革の変遷
小選挙区制が導入された1994年でした。それまで、さまざまな選挙制度の導入・改善が繰り返されてきました。その変遷を振り返ります。
戦後の中選挙区制とその問題点
戦後の日本では長らく中選挙区制が採用されていました。中選挙区制では、1つの選挙区から複数の議員が選出されるため、特に大政党が優位に立ち、自民党が長期的に政権を維持する要因となりました。
しかし、中選挙区制には以下のような問題がありました。
派閥政治の助長
同じ政党の候補者が同じ選挙区で争うことが多くなり、党内の派閥対立が激化しました。
※派閥についてはこちらの記事でくわしく解説しています。
利益誘導政治
地方の利権や特定の地域に対して、政治家が過剰な利益誘導を行うことが指摘されました。
これらの問題を解決するため、1994年に選挙制度改革が実施されました。
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1994年の選挙制度改革と小選挙区制の導入
1994年に中選挙区制を廃止し、小選挙区比例代表並立制が導入されました。この改革の目的は、選挙制度をより公平で透明性の高いものにすることでした。
小選挙区制の導入は、以下のような効果を狙ったものでした。
二大政党制の促進
大政党が議席を獲得しやすい小選挙区制の導入により、二大政党制を促進し、政権交代が起こりやすい政治環境を整備することが目指されました。
派閥政治の縮小
中選挙区制で見られた同じ政党内の派閥争いが減少し、政党の政策がより明確になることが期待されました。
※関連記事:政治派閥とは:派閥のメリット・デメリットや無派閥との違いを解説し、派閥の歴史を振り返ります
小選挙区比例代表並立制の課題
1996年から小選挙区比例代表並立制が実際に導入されましたが、いくつかの課題が浮上しました。
死票の増加
小選挙区制では、2位以下の候補者に投票された票が「死票」となり、選挙結果に反映されません。これにより、有権者の意見が十分に反映されないとの指摘が出ました。
小党の排除
小選挙区制では、少数政党が議席を獲得しにくくなるため、多様な意見の反映が難しくなるという問題も生じました。
55年体制の終焉と政権交代
日本の55年体制は、1955年から続いた自民党が長期にわたり政権を維持する政治体制です。小選挙区制の導入によって、1993年に非自民連立政権が誕生し、55年体制が終焉を迎えました。
これが日本の近代政治における大きな転機となり、以後、政権交代が現実のものとなりました。
その後の2009年には、民主党が自民党に代わり政権を握ることになり、二大政党制の一端が見られるようになりました。この時の政権交代は、民主党が経済政策や政治改革に対する期待を背景に圧倒的な勝利を収めた事例です。
※関連記事:過去の政権交代の事例
小選挙区制の改善に向けた取り組み
小選挙区制の課題を克服するため、日本ではさまざまな改善策が検討されています。例えば、以下のような取り組みが進められています。
一票の格差問題の是正
選挙区ごとの人口差が大きいことにより、1票の価値に差が生じる「一票の格差」が問題視されています。
これに対して、選挙区の区割りを見直し、より公平な選挙制度にするための取り組みが進んでいます。
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小選挙区と比例代表制で2票投票
衆議院選挙では、1回の選挙で候補者と政党の両方に投票する制度が導入されています。1人の有権者が「候補者個人」と「政党」のそれぞれに投票できる制度です。
候補者も「小選挙区」と「比例代表」の両方で立候補できるため(重複立候補)、問題点が指摘され、改善が議論されています。
現代における選挙制度の改革と展望
2024年時点でも選挙制度改革に向けた議論は続いており、特に「一票の格差」問題や死票の問題が依然として焦点となっています。
また、将来的にはネット投票の導入や、若者の投票率を向上させるための対策も必要とされています。
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選挙制度は、政治の信頼性を高めるためにも、絶え間ない改善が求められる分野です。
まとめ
小選挙区制には、政権の安定を確保しやすいというメリットがある一方で、少数派の意見が反映されにくいというデメリットもあります。
国政選挙では小選挙区制と比例代表制が組み合わさった並立制が採用されており、それぞれの制度のメリットを活かしつつ、デメリットを補完しようとする取り組みがなされています。
選挙制度は民主主義の根幹を支える重要な要素であり、今後も制度の改善が求められるでしょう。
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