内閣総理大臣は日本の政治のトップです。ですが、内閣不信任決議が提出・可決されると総辞職しないといけなくなります。実際、不信任決議が可決されて総辞職した歴代内閣は4つあります。
そこで、内閣不信任決議の提出や可決の条件をお伝えし、不信任決議が可決されたときの経緯や状況について紹介します。
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内閣不信任決議とは?
内閣の政策や言動に対して不信や不満があるとき、衆議院議員は内閣不信任をつきつけることが可能です。
内閣不信任決議の定義と目的
内閣不信任決議とは、衆議院が内閣に対して信任を失ったと表明するための議会決議です。この決議は、日本国憲法第69条に基づき、内閣が適切に国政を運営できていない、または信頼できないと判断された場合に提出されます。
目的は、議会が内閣の責任を追及し、内閣総辞職か衆議院解散による民意の再確認を促すことです。
この制度は議会と内閣のチェックアンドバランスを維持し、国民の信頼を確保するための重要な仕組みです。
衆議院解散と内閣不信任決議の関係:なぜ解散が行われるのか
内閣不信任決議が衆議院で可決された場合、内閣は憲法第69条に基づき、10日以内に衆議院を解散するか、内閣総辞職を選択する義務があります。
衆議院解散が選ばれる理由は、現行の議会構成が国民の意思を反映していない可能性を考慮し、総選挙を通じて国民に信を問うためです。
また、内閣が解散を選択することで与党の基盤を再強化し、政権を維持する戦略も関係しています。
この仕組みは、議会内の対立を国民の判断で解決する手段として設計されています。
内閣不信任決議が可決された歴代内閣
過去に内閣不信任決議案が提出され可決された内閣は過去に4つあります。
可決時期 | 内閣 |
1948年12月 | 吉田茂内閣 |
1953年3月 | 吉田茂内閣 |
1980年5月 | 大平正芳内閣 |
1993年6月 | 宮澤喜一内閣 |
第二次吉田内閣の不信任決議の経緯
1948年、第2次吉田内閣は与党が少数派で政権基盤が脆弱だったため、早期の解散総選挙を計画していました。憲法第69条に基づく内閣不信任決議なしで解散が可能かどうかで与野党が対立し、GHQも関与。
11月に野党が内閣不信任決議を提出する協定が結ばれ、12月23日に可決され衆議院が解散されました。この解散は「馴れ合い解散」と呼ばれました。
第五次吉田内閣の不信任決議の経緯(バカヤロー解散)
1953年、吉田茂首相の「バカヤロー発言」を契機に内閣不信任案が提出されます。このとき三木武吉、石橋ら反吉田派22名が賛成に回ったため不信任案は可決され、衆議院が解散されました。
総選挙の結果、自由党は過半数に届かず、吉田は改進党と鳩山自由党の協力を得て再び首相になります。
ところが1954年、造船疑獄が発覚し吉田首相は検事総長に捜査中止を指示。すったもんだの末に法務大臣が辞任。政局不安定の中、反吉田派が日本民主党を結成し、内閣不信任案を提出する動きに出たため、吉田首相は内閣総辞職を決断しました。
大平内閣の不信任決議の経緯
1980年、大平首相は新自由クラブとの連立を模索しましたが、党内反発で難航します。
11月9日、第2次大平内閣を発足させ、文部大臣を臨時兼任。
11月20日、新自由クラブからの閣僚起用を断念し、自民党の谷垣専一を文相に任命して一応収束。
ところが1980年5月、与党内での造反によって内閣不信任決議が提出・可決され、衆参同日選挙を実施します。選挙期間中の6月12日、大平が急逝し、伊東正義が臨時代理となり内閣は形式上総辞職しました。
宮澤内閣の不信任決議の経緯
バブル崩壊後、宮澤首相は日銀総裁三重野康と共に公的資金投入を模索しましたが、大蔵省などの反対で断念します。金融機関への公的資金投入はタブーとなり、以後、政治家はこの話題を避けるようになりました。
背景には側近の浜田卓二郎や日銀総裁の三重野との議論があり、宮澤は金融機関の不良債権処理を早期に進めるべきと考えていましたが、実現に至りませんでした。
おりしも、リクルート事件で政治改革が重視されていました。小選挙区制導入をはじめとする政治改革に宮澤首相は積極的ではなく、党内で反発を受けていました。
不良債権処理に消極的にみえ、さらには政治改革にも消極的な姿勢だったため、そのリーダーシップを疑問視されます。
1993年、こうした対立から内閣不信任案が可決され、自民党は総選挙で過半数割れ。結果、細川内閣が成立し、宮澤は自民党長期支配の最後の首相となりました(55年体制の終焉)。
15代目の自民党総裁だったため、徳川幕府最後の将軍である15代・徳川慶喜になぞらえて、「自民党の徳川慶喜」とも称されました。
内閣不信任決議が可決される仕組み
内閣不信任決議の手続きと条件
内閣不信任決議案を提出するには、衆議院議員51名以上の賛成が必要です。この案が受理されると、議会で審議が行われ、最終的には衆議院本会議で採決されます。
可決には、衆議院議員の過半数の賛成が必要です。与党が過半数を占めている場合は可決が難しいため、野党は不信任決議案を提出するタイミングを慎重に選びます。
また、可決されるためには与党内部の不満や分裂などの政治的要因も大きく影響します。
可決された場合は衆議院解散か内閣総辞職かの選択
内閣不信任決議が可決されると、内閣は「衆議院解散」か「総辞職」のどちらかを選択しなければなりません。
衆議院解散は、与党が議会の主導権を取り戻すための再選挙に望みをかける戦略である一方、総辞職は内閣が自らの失敗を認め、新たな政権に道を譲る選択です。
実際には、与党の支持率が高い場合や選挙で有利と見込まれる場合に解散が選ばれる傾向があります。この選択には、政治的な駆け引きや世論の動向が大きく影響します。
衆議院解散後の流れ
内閣総理大臣が衆議院の解散を決定した場合、解散宣言が行われます。
解散から40日以内に総選挙が実施され、選挙後30日以内に特別国会が召集されます。特別国会において新しい内閣総理大臣が選出され、新たな内閣が発足します。
なお、衆議院を解散した場合でも内閣はいったん総辞職し、新たに組閣します。
内閣不信任決議が可決されない理由
内閣不信任決議は多くの場合、否決されてしまいます。その理由を解説します。
与党の多数派による防御の仕組み
与党が衆議院で過半数を占めている場合、不信任決議案が可決される可能性は極めて低くなります。与党議員が党の統一方針に従って反対票を投じることで、案は否決されます。
また、与党内で不満があったとしても、議員は次の選挙や党内での地位を考慮し、造反を避ける傾向があります。
この仕組みは政権の安定性を保つ一方で、野党にとっては不信任決議が「象徴的な抗議」の場として機能するに留まることが多いです。
野党が内閣不信任決議を提出する背景とその意図
否決される見込みが高くても、野党は合同で内閣不信任決議を提出することがよくあります。その目的は、政権批判を国民にアピールすることにあります。
可決の可能性が低くても、重要な政策や政府の対応に対する不満を議論の場に引き出し、メディアや有権者の注目を集める意図があります。
また、内閣に対する世論の批判を喚起し、与党内の分裂や政権基盤の弱体化を狙うことも目的の一つです。
このように、不信任決議は政治的駆け引きの重要な道具として機能しています。
内閣不信任決議が可決される条件
前述のように内閣不信任決議が可決されるケースは4回でした。そのうち1回(1948年第二次吉田内閣)は、解散総選挙をするための形式的な不信任決議でした。
以降3回の不信任決議可決には共通してある状況がみられます。
政権に批判的な世論
1つ目は、政権に対する批判的な世論です。政権内の不祥事、不安定な経済など国内の情勢が理由となって政権に対して国民が懐疑的な気持ちを抱いたときに、不信任決議案が提出されがちです。
ただし、不信任決議案の可決にはこれだけでは不十分です。衆議院で過半数の賛成が必要だからです。
内閣は衆議院で過半数の議席を占める政党が組織します。野党議員が全員不信任決議に賛成しても、与党議員が反対すれば可決されません。
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与党内からの造反
そこで、不信任決議が可決される2つ目の理由として「与党内からの造反者」が挙げられます。
1953年の吉田内閣、1980年の大平内閣、1993年の宮澤内閣のいずれでも与党内から大量の造反者が出ています。
つまり、与党内からの造反者を確保できる見込みになると不信任決議が提出され採決されるのです。
ただし、造反者でその後首相になった人はいません。不信任が突きつけられる側も造反して突きつけた側も、大きな政局混乱で苦労した人と言えるかもしれません。
内閣不信任決議の意義とその影響
では、内閣不信任決議をする意義、またその影響は何でしょうか。
内閣不信任決議が政治に与える影響
内閣不信任決議は、国会が内閣の政策や運営に重大な問題があると認めた場合に行われる決議であり、日本の議会政治において非常に大きな影響を持ちます。
この決議が可決されると、内閣は衆議院解散か総辞職を選ばざるを得ません。
そのため、政治の流れを大きく変える契機となり得ます。また、否決された場合でも、与野党間の対立が浮き彫りとなり、政権運営や政策決定に影響を及ぼすことがあります。
不信任決議は、単なる批判ではなく、政府の責任を問う重要なプロセスとしての役割を果たしています。
内閣不信任決議が示す議会政治の意義とは?
内閣不信任決議は、議会が内閣を監視し、責任を問う制度であり、議会政治の基本的な意義を示しています。この制度は、内閣と議会の緊張関係を通じて民主主義の均衡を保つための仕組みです。
議会の多数派による決定は、国民の信任に基づいて行われるため、不信任決議を通じて国民の意思が間接的に反映されます。また、不信任決議は野党にとって内閣に対する批判を正式に表明する場であり、議会での活発な議論を促進します。
このように、内閣不信任決議は、議会の透明性と政府の説明責任を確保する上で不可欠な役割を担っています。
衆議院解散と内閣不信任決議のわかりやすい解説
内閣不信任決議が可決された場合、内閣は衆議院解散を選択することもできます。その理由について解説します。
衆議院解散の理由と手続き
衆議院解散は、内閣不信任決議が可決された場合や内閣が必要と判断した場合に行われます。
内閣不信任決議に関連する解散は、憲法第69条に基づき、内閣が信任を回復するために選択します。手続きとしては、内閣が解散を決定し、総理大臣が天皇に対し解散を求めることで正式に発動されます。
解散後には必ず総選挙が行われ、国民の意思を問うことが求められます。
この制度は、内閣が立法府の信頼を失った場合に、国民による再評価を行う機会を提供する重要な仕組みです。
内閣不信任決議後の流れと国政への影響
内閣不信任決議が可決された場合、内閣は衆議院解散か総辞職のいずれかを選択します。解散が選ばれると、国会は一時的に閉じられ、総選挙が実施されます。
総選挙の結果次第では、与党が議席を増やして政権基盤を強化することもあれば、逆に政権交代が起きる場合もあります。
一方、総辞職を選ぶと、新たな内閣が組閣され、政策が変更される可能性があります。不信任決議後の動きは、政治情勢を大きく揺るがすだけでなく、国政の方向性をも左右する重要な過程です。
なお、解散総選挙の後に召集される国会を特別国会といい、毎年1月に開かれる通常国会とは運営期間などルールに違いがあります。くわしくは以下の記事で詳しく解説しています。
国会の日程:国会ではいつ・何の議題が話し合われているのか?国会議員はどんなスケジュールで動いている?
現代日本における内閣不信任決議の課題
現代でも内閣不信任決議はたびたび提出されています。しかし、その運営には課題も指摘されています。
内閣不信任決議が形骸化しているとの指摘
現代日本では、内閣不信任決議が形骸化しているとの批判が存在します。
与党が衆議院の過半数を占める状況では、不信任決議が可決される可能性が極めて低く、実質的な効果を持たないことが多いのが現状です。その結果、野党が不信任決議を提出する目的が、内閣批判を世論に訴える象徴的な行動に留まる場合があります。
また、議会での建設的な議論が不十分となり、不信任決議が制度本来の役割を果たせていないという問題も指摘されています。
このような状況が続くことで、国民の政治への関心が低下するリスクもあります。
内閣不信任決議を通じた政治改革の可能性
内閣不信任決議をより効果的に活用することは、日本の政治改革につながる可能性を秘めています。不信任決議が与野党の政策論争の場として機能すれば、国民にとって政治の透明性と説明責任を向上させる契機となります。
また、与党の一党支配が長期化する現状を打破し、議会内で多様な意見を反映させる仕組みを構築することが求められます。
さらに、野党が単なる反対勢力ではなく、具体的な代替案を提示することで、議会全体の信頼性が高まり、民主主義が一層強化されるでしょう。
このような取り組みが進めば、内閣不信任決議は単なる形式にとどまらない政治改革の起点となり得ます。
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まとめ
いかがでしょうか。
内閣不信任決議とは何か説明し、不信任決議が可決された歴代内閣4つ(吉田内閣2回、大平内閣、宮澤内閣)と可決までの経緯を紹介しました。
不信任決議は衆議院で過半数の賛成票が必要です。政権に対する世論の強い反発に加えて、与党内での造反者が大量に出たときに可決されます。
また、不信任決議が提出されるのは国内の情勢が不安定なときです。大きな転換をしなくても良いような安定した状況が望ましいのかもしれません。
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