大統領と首相は多くの国においてリーダーシップを発揮する重要な役職ですが、その役割や権限は国によって異なります。
本記事では、それぞれの役割や権限、選出方法の違いを詳しく解説し、日本と他国の例を比較しながら、大統領と首相がどのように政治を動かしているかを明らかにします。
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首相とは
首相(Prime Minister)は、通常、議会制民主主義を採用している国における行政の長です。代表的な国にはイギリス、日本、カナダ、オーストラリアなどがあります。
首相は、議会(多くの場合は下院)の多数派によって選出され、内閣の長として行政機関を率います。
首相の権限と役割は以下の通りです。
行政の長
首相は政府の運営を監督し、政策の実施を指導します。
内閣の組織
内閣の閣僚を任命し、閣僚たちと協力して政府の政策を策定します。
議会との関係
首相は議会の信任を必要とし、議会との密接な関係を保ちながら政策を進めます。議会の信任を失うと、辞任や総選挙の実施が求められることがあります。
以上より、首相は議会との協調関係によって政策を進める役割と言えます。
内閣総理大臣の職務については以下の記事でくわしく解説しています。
内閣総理大臣の役割とリーダーシップ:長期政権と短命政権の違いを実例をまじえて解説
大統領とは
一方、大統領(President)は主に共和制を採用している国における国家元首であり、行政の長でもあります。アメリカ合衆国、フランス、ロシアなどがその代表例です。
大統領は国民による直接選挙または特別な選挙団(国民が選んだ代表者など)によって選ばれ、その権限は多くの場合、首相よりも強力です。
大統領の権限と役割は以下の通りです。
国家元首としての役割
大統領は国家の象徴であり、外交儀礼や重要な国際会議などで国家を代表します。
行政の長
大統領は行政機関のトップとして政策を指導し、行政命令を発出して政府の方針を実施します。
法案拒否権
大統領には議会で可決された法案に対して拒否権を行使する権限があります。この権限により、法案の成立には大統領の承認が必要となります。
首相と大統領の違い
それぞれの役割や権限が分かったところで、「違い」をまとめて紹介します。
選出方法の違い
選出方法においても両者には大きな違いがあります。
首相は議会の多数派によって選出されるため、選挙結果に直接依存します。例えば、日本では衆議院選挙で過半数を獲得した政党の党首が首相に選ばれます。
一方、大統領は国民の直接選挙または特別な選挙団によって選ばれます。アメリカ合衆国では、国民が選ぶ選挙人が大統領を選出するシステムです。
制度上の違い
制度上の違いも重要です。
議会制では、首相が議会の信任を受けているため、行政と立法の間に強い連携があります。このため、政府の政策がスムーズに実行されやすい反面、政局が不安定になることもあります。
一方、共和制では、大統領は議会とは独立して選出されるため、行政と立法の間に一定の緊張関係が生じることがあります。この分立は、権力の分散と抑制を図るための仕組みとして機能します。
首相と大統領は、いずれも国家の重要な指導者であり、それぞれの政治システムに応じて異なる役割と権限を持っています。
議会制民主主義では、首相が議会の支持を得て政府を運営し、共和制では大統領が国家の元首として広範な権限を行使します。
違いのまとめ
比較項目 | 大統領制(例: アメリカ) | 議院内閣制(例: 日本) |
選出方法 | 国民の直接選挙 | 国会議員の投票で選出 |
任期 | 固定された任期制 | 国会の信任に依存し、変動することがある |
権限 | 強い独立性と広範な権限 | 国会との協調が求められ、内政重視 |
解任方法 | 弾劾手続きが必要 | 不信任案の可決で解任可能(※) |
※不信任決議については以下の記事でくわしく解説しています。
内閣不信任決議とは:不信任決議が可決された日本の歴代内閣4つとその経緯を紹介
日本の首相の権限
以上のように、首相と大統領では違いがあります。
ここからは、日本の首相の権限について説明します。
日本の首相(内閣総理大臣)の権限は、日本国憲法と関連する法律によって定められています。以下に、首相の主要な権限と役割について詳述します。
内閣の長としての権限
内閣の組織と運営について、以下のような権限を有しています。
内閣の指名権
首相は内閣の閣僚(国務大臣)を任命します。国務大臣の過半数は国会議員である必要があります。
閣議の主宰
首相は閣議を主宰し、内閣の方針や政策の決定を指導します。閣議は内閣全体の意思決定機関であり、全会一致で決定されます。
法律案の提出
首相は内閣として国会に法律案を提出する権限を持ちます。この権限により、政府の立法方針や政策を国会で審議させることができます。
予算の編成
首相は財務大臣と協力して国家予算を編成し、国会に提出します。予算案は国会で審議され、可決されることで実行に移されます。
政令の制定
首相は内閣として政令を制定する権限を持ちます。政令は法律の執行を細部にわたって規定するもので、行政運営の具体的な指針となります。政令は議会の承認なしに改正が可能です。
行政府の最高責任者としての権限
首相は行政府の長として以下のような権限を有しています。
国の政策の総合調整
首相は各省庁間の調整役として国の総合的な政策を立案し、実施します。このため、首相には各省庁からの情報収集と調整の権限が与えられています。
外交権の行使
首相は内閣を代表して外交を担当し、他国との条約締結や国際会議への参加を行います。
緊急事態への対応
災害や有事の際には、首相が中心となって対応策を指揮します。例えば、地震や台風などの自然災害時には災害対策本部が設置され、首相が対策メンバーに指示を出します。
国会における権限
首相には国会について以下のような権限を有しています。
衆議院の解散
首相は内閣の決定に基づき、天皇の名で衆議院を解散する権限を持っています。解散後は総選挙が行われ、新しい国会議員が選出されます。
国会での答弁
首相は国会の召集に応じ、国会において政府の方針や政策について説明し、質疑応答を行います。特に、施政方針演説や予算委員会での答弁が重要です。
なお、施政方針演説のはじまりは1890年の第3代内閣総理大臣・山縣有朋でした。
なお、国会答弁については以下の記事でくわしく解説しています。
国会答弁とは:国会答弁の目的や問題点を解説し、過去の有名な国会答弁を紹介(ロッキード事件、森友など)
その他の権限
上記以外の首相の権限を列挙します。
公務員の任免
首相は内閣法制局長官や警察庁長官などの重要な公務員の任免権を持ちます。これにより、行政機関のトップを選定し、行政の適正な運営を確保します。
天皇への助言と承認
首相は天皇の国事行為に関して助言と承認を行います。ただし、国事行為に際しての内閣の助言と承認に対して、天皇はこれを拒否する権能、変える権能はないため(内閣法制局より)、内閣の助言と承認は形式的なものであるとする意見もあります。
なお、天皇の補佐機関として戦前では枢密院がその役割を担っていました。枢密院については以下の記事でくわしく解説しています。
枢密院の設立背景と役割:元老院や衆議院の関係性や機能の違いなど日本の政治機構とその影響を解説
首相と大統領のどちらが良い政治をできるか比較
国によって首相と大統領は分かれています。首相と大統領の両方存在する国もあります。
首相と大統領はどちらのほうが良い政治をできるのでしょうか。
選出方法と正統性で比較
大統領は国民によって直接選ばれることが多く、強い正統性を持ちます。これに対して、首相は議会から選ばれるため、議会との連携が重要です。
たしかに「国民の希望が政治に反映されやすい」という意味では、制度的には大統領制のほうがよさそうです。ただし、直接国民から選ばれるため、国内で分断が進んだり国民同士が感情的に対立をしていると、短期的あるいは短絡的な解決法が選択されてしまいかねません。
権力の集中度で比較
大統領は多くの国で広範な権限を持ち、特に外交と国防において強力なリーダーシップを発揮します。
一方、首相は内政の運営において重要な役割を果たしますが、議会の支持が不可欠です。
大統領のほうが強いリーダーシップを発揮できそうですが、リスクも大きいです。日本は国際社会の一員なので、経済・外交・軍事・環境・人権などの主要テーマについて他国と影響しあいながら暮らしています。
もし一国の長である大統領が国内の政治状況に応じて勇猛果敢な(?)判断を行い、国際的に大きな批判を浴びることになると、より大きな問題に発展しかねません。
制度の違いで比較
議会制民主主義では、首相が内閣を率い、議会と連携して政治を運営します。そのため内閣と議会で意見が分かれた場合、折衷案をお互いにさぐることになります。政治資金規正法の改正など、短期的に大きな変化はむずかしいでしょうが、言いかえると「極端な変化」も起こりにくいです。
一方大統領制では、大統領が行政のトップとして強い権限を持ち、立法府から独立して行動します。議会がストップをかけようとしても大統領がそれを突破することも、場合によっては可能でしょう。ただし、大統領の判断や行動に一定の歯止めをかけられるシステムが存在しないと、場合によっては「独裁国家」誕生につながりかねません。
首相と大統領のメリット・デメリットまとめ
ここまでお伝えした議院内閣制と大統領制のメリット・デメリットを以下の表にまとめました。
メリット | デメリット | |
首相 | ・議会の承認を得やすい ・さまざまな立場の意見が反映されやすい | ・国民の意思を反映した政策案が生まれにくい ・短期的に大きな変化を起こしにくい |
大統領 | ・国民の意思を反映した政策案が生まれやすい ・短期間で大きく変化するような強いリーダーシップが発揮されやすい | ・議会の承認を得にくい ・国民の多数派の意見に偏りやすい(少数派の意見が埋没しやすい) |
結論:大統領のほうが権限の範囲が広いがリスクも大きい
結論を申し上げると、一般的に大統領のほうが広い権限を有しますが、その分リスクも大きくなりそうです。
日本国内のことだけでも、労働問題や税制問題、憲法改正問題など、さまざまな問題があります。核問題には関係者の立場によって「正義」も異なり、一点突破の考え方や行動が常に朝敵に良い結果につながるとは限りません。
仮に日本に大統領制を導入するとしても、前述のように大統領の行動に歯止めをかけられるシステムが必要かもしれません。
例えばフランスには大統領と首相の両方います。首相は大統領の行政権の下に置かれ、首相の任命権も大統領が持ちます。ですが、2024年マクロン大統領による解散総選挙のように、国内の政党支持状況によってリーダーシップは大きく影響を受けています。
「国民にとって良い政治」と言うときの「国民」に含まれるのは誰なのか?含まれない人はいないのか?といった広範囲な議論が良い政治につながっていくようにも思います。
まとめ
首相と大統領の違いについて説明し、日本の首相の権限を紹介しました。
首相は議院内閣制で、国会議員によって選出されます。一方大統領は国民から直接選ばれます。法案を通しやすいのは首相(議院内閣制)ですが、国民の意思が反映された法案が生まれやすいのは大統領制です。
日本の首相には内閣の長、行政府の長としての役割と権限があります。選挙をとおして国民の意思をきちんと政治に反映させることが国民の役割と言えるでしょう。
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