「政治家は税金を免除されている!?」
このように考えている人は多いのではないでしょうか。
実はこれは誤解です。ですが、私たち一般人の納税状況から考えると「間違っている」とも言えません。
そこで、誤解されがちな政治家の税金事情について説明します。
※関連記事:政治家になるにはどうすればいいか【国会議員】:資格はいる?年齢制限は?お金はどれくらいかかる?
政治家の税金
「政治家は税金が免除されているのではないか」
そう考えている人は少なくないかもしれません。ですが、それは一部誤解です。
政治家にも納税義務がある
政治家も他の国民と同様に納税義務があります。国会議員や地方議員としての給与は、一般のサラリーマンと同様に課税対象となります。
源泉徴収もある
政治家の給与は「歳費」と呼ばれる国庫から支給されています。歳費も他の給与所得者と同様に源泉徴収の対象となります。
給与支給時に所得税が源泉徴収され、税務署に納付されます。これにより、政治家自身が確定申告を行う必要はありませんが、その他の所得がある場合は別途申告が必要となることがあります。
国会議員の給与
ちなみに国会議員の給与は「国会議員の歳費、旅費及び手当等に関する法律」という法律で決められています。
各議院の議長は二百十七万円を、副議長は百五十八万四千円を、議員は百二十九万四千円を、それぞれ歳費月額として受ける。
国会議員の歳費、旅費及び手当等に関する法律 第1条より引用
国会議員の給与は「歳費」と呼ばれ、歳費は月額129万4000円で、期末手当を含めて年間2190万円です。
なお、国会議員の報酬に関して以下の記事で詳しく解説しています。
政治家の給料はいくらなのか:日本の国会議員と世界の国会議員を比較
また、給与と議員個人の副業を合わせた年収について以下の記事で詳しく解説しています。
国会議員の年収(本業・副業):議員報酬引き下げに関する議論の内容やこれまでの改革内容をまとめました
地方議員(県会議員・市町村議員)の給与
地方議員(県会議員・市町村議員)の給与については地方自治法で大まかなルールが定められており、具体的な金額は各自治体の条例で決められています。
政令指定都市と地方都市で金額に幅があり、おおよそ700万円~1000万円の間です(東洋経済オンラインより)。ただし、議長や副議長といった役職に就くと政令指定都市では役職手当だけで年間数百万円にもなります。
なお、県会議員・市町村議員になる方法を以下の記事でくわしく解説しています。
県会議員・市町村議員になるにはどうすればいいか?地方議員の多い政党や年収の実態を徹底解説!
政治家の税金に関する特権と例外
議員特権とは何か?
議員特権とは、議員に与えられる法律上の特権や待遇のことを指します。税制面での優遇措置もその一つとして取り上げられます。
例えば、議員は選挙活動における支出の一部を経費として認められるため、一定の税金優遇を受けることが可能です。
これにより、政治活動に必要な資金調達が容易になり、選挙活動が公正に行われやすくなります。
しかし、議員特権がある一方で、特権が過度に優遇された場合、税負担の公平性が損なわれる可能性があり、この点については議論があります。
政治家の資産や不動産にかかる税金
政治家が所有する資産や不動産にも税金がかかります。資産運用に関しては、例えば株式や不動産に対して譲渡所得税がかかる場合があります。
政治家が所有する不動産に関しても、固定資産税や相続税などが課税されます。政治家は自らの資産管理を適切に行う義務があり、これらにかかる税金を適切に支払うことが求められます。
特に不動産に関しては、その規模や立地に応じて大きな税負担が発生することもあります。
政治家の非課税となる報酬
政治家が受け取る報酬には数種類あります。さきほど紹介した歳費はそのひとつですが、ほかに非課税となる報酬があります。
文書通信交通滞在費(文通費)
政治家としての活動に必要な書類の発送費、交通費、滞在費に使える報酬です。月100万円、1年間で1200万円になります。
政治活動のために必要な費用であり、個人の収益のためではないという前提があるため、非課税です。
各議院の議長、副議長及び議員は、国政に関する調査研究、広報、国民との交流、滞在等の議員活動を行うため、調査研究広報滞在費として月額百万円を受ける。
国会議員の歳費、旅費及び手当等に関する法律 第9条より引用
なお、使途を公開する必要がないため、私的に流用したとしても分かりません。
立法事務費(立法費)
立法事務費として月65万円、1年間で780万円支給されています。
立法事務費として各会派に対し交付する月額は、各議院における各会派の所属議員数に応じ、議員一人につき六十五万円の割合をもつて算定した金額とする。
国会における各会派に対する立法事務費の交付に関する法律 第3条より引用
政治家の主な活動のひとつに「立法」があります。法案を国会に提出して成立を目指します。
立法のための活動(特定の人や団体から話を聞く、自身も調査をするなど)に使われる費用であり、こちらも非課税です。
なお、使途を公開する必要がないため、私的に流用したとしても分かりません。
さらに、立法事務費は所属している会派に支払われます。使途公開義務がないため、会派が不正に流用したとしても分かりません。
パーティー等寄附金
2024年の政治資金規正法改正のきっかけとなった政治資金パーティ。こうした活動で集められた寄付金も非課税です。
政治団体が受け取る寄付金は個人や法人の収益活動ではないという税法上のルールがあるからです。
こちらも使途を明らかにする必要はありませんでしたが、ある程度公開することになっています。
なお、寄付金を払った側は経費あるいは控除できますが、寄付金によって利益を得ていると判断されると経費にも控除にもできません(国税庁より)。
なお、政治資金規正法や政治資金収支報告書については以下の記事で詳しく解説しています。
政治資金規正法とは:政治資金スキャンダルと歴代内閣への影響、政治資金規正法改正の内容をまとめました
政治資金収支報告書とは:収支報告の報告義務はどこまで?違反するとどうなる?
政務活動費
地方議員の場合、国会議員がもらえる立法費や文通費といった名目ではなく「政務活動費」という名称で給与以外に費用が支払われます。
政務調査費という名称でしたが、「調査」だと使途が窮屈になるとの主張で「活動」に変更されました。
参考:総務省
使途は公開されますが、不正使用を疑われたケースはたびたびあります。
2014年の兵庫県の野々村県議の例(日帰り主張197回で号泣会見)、2020年広島市の熊本憲三市議の例(人件費の不正取得)など。
政治家と税制改革:透明性と公平性の確保
政治家の納税の透明性確保の必要性
政治家の納税に対する透明性の確保は非常に重要です。議員の収支報告書や納税記録は、一般市民に公開されるべき情報として位置付けられています。
これにより、政治家が公正に納税を行い、税金が適切に使用されているかを監視することができます。
しかし、実際には公開される情報が不十分であったり、透明性に欠ける場合があるため、さらなる改善が求められています。
特に税金の使い道に関しては国民の信頼を得るため、政治家自らが公開する責任を果たす必要があります。
税金を管理する政治家としての責任
政治家には、税金を管理し使い道を決定する重要な責任があります。
国民の税金は社会インフラや福祉、教育などさまざまな分野で使用されますが、その決定を行う立場にある政治家は、その責任を十分に理解し、納税者としての模範となる姿勢が求められます。
政治家は税金を有効に使うだけでなく、無駄遣いや不正が行われないように監視機能を果たす必要があります。
このように、税金の管理と透明性を確保するために、政治家は常に国民に対して説明責任を負っているのです。
政治家が税制優遇を受ける裏事情
前述のように、政治家は給与が源泉徴収されていますが、非課税の報酬もかなり高額です。
高額な給与以外に非課税の報酬が支払われるのは、「政治にお金がかかるからだ」とよく言われます。なぜお金がかかるのでしょうか。
政治家の広報のためにお金が必要
政治にお金がかかると言われる理由は主に「広報費」です。
郵政大臣や国家公安委員長などを歴任した深谷隆司元衆議院議員はある雑誌で次のように述べています。
「現役国会議員には公設秘書が三人付く。しかし、広い選挙区で政治活動をするには三人ではとても足りず、最低でも四~五人の私設秘書が必要で、その手当、人件費がかかる。/選挙区には当然事務所を開き、場所によっては数カ所必要なところもある。これらの維持経費は馬鹿になりません。/後援会活動に要する費用も大きく、仮に政治用パンフレットを作りこれを発送するとなると印刷費、郵送代と大変な費用がかかります。数万枚のパンフレットを年数回出さなければ主張を徹底して伝えることができないのだから、大変なのです」
月間Hanada2024年4月号より引用
ほかの候補者がお金を使うから広報費を使わざるを得ない
こうした広報活動をやめれば良いのでは?とも思いますが、なかなかそうはいかないようです。
結局、地元選挙区でほかの候補者がお金をかけて自身をアピールしており、自分が活動を制限すると知名度がうすれ、次の選挙で落選するかもしれません。
そのため、お金をかけてパンフを配り、講演費をもらえないのに講演活動を行い(法律でそう定められている)、結婚式にはお祝い金を送り、お通夜には香典を持参します(FRAU the Earth「政治にはなぜお金がかかる?」より)。
大体2-3年に1回は選挙があります。落選したら政治活動もできません。しかも高額の選挙活動費を払って選挙活動をするので、使った分くらいは取り返したいと思うのが人情かもしれません。
政治資金の不正利用を「個人の問題」だけで片付けられないのには、こうした事情がからんでいるからです。
政治家の税金事情のまとめ
政治家には納税義務があり、給与も源泉徴収されます。ただ、給与以外に支払われる非課税の報酬もあります。
国会議員なら文通費・立法費・寄付金、地方議員なら政務活動費です。
不正利用が疑われるケースが定期的に発生しており、使途を明らかにすべき、制度事態を廃止すべきだといった議論が長年つづいています。
政治にお金がかかるのは、個人の資質のほかに選挙制度上の課題も指摘されています。
議論が進み、透明度や実質性の高い政治活動が行われることを期待しています。
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