国務大臣はどの職も重要な役職ですが、総理大臣職へとつながる重要な中継地点でもあります。ですが、戦後の総理大臣経験者47人が総理大臣になる前に経験した大臣職を集計したところ、総理大臣になった人が過去に経験した国務大臣職には偏りがあります。
そこで、総理大臣が務めた国務大臣職をランキング形式で紹介します。
※関連記事:歴代内閣総理大臣の在職日数ランキング(1~20位):在職日数の長い首相、短い首相
内閣における大臣の序列と格付けの基準
内閣における大臣の序列や格付けは、内閣総理大臣の政策への関与の度合いで決定します。大臣の格付けは、その役職の重要性や政策への影響力、伝統的な慣例などに基づいています。
内閣総理大臣の補佐的な役割を担う副総理や重要度が高いとされる財務大臣・外務大臣が上位に位置することが多く、その他の大臣も国家の政策や国際的な関わりによって異なる序列が決まります。
内閣総理大臣と大臣の関係性
内閣総理大臣は内閣を統括し、閣僚を指導する立場にあり、最終的な政策決定権を持っています。一方で、大臣は各省庁を率い、特定の分野における政策を推進する責任を持ち、総理と連携しながら政策の実現に努めます。
※省と庁の区別の違いについてはこちらの記事で解説しています。
総理の政策方針を実行に移す役割も大臣には求められ、その関係性が政策の進行や内閣の統一性に大きな影響を及ぼします。
内閣総理大臣の役割については以下の記事でくわしく解説しています。
内閣総理大臣の役割とリーダーシップ:長期政権と短命政権の違いを実例をまじえて解説
大臣の序列はどのように決まるか?
大臣の序列は、各大臣の担当分野の重要度、内閣の政策優先順位、伝統的な地位の高さなどから決まります。
例えば、外交や経済政策で重要とされる外務大臣・財務大臣が上位に位置し、その他の省庁も国の情勢や課題によって変動します。また、副総理が配置される場合、副総理は大臣の中で総理に次ぐ高い地位に位置付けられます。
序列がもたらす影響と役割
大臣の序列は内閣内での影響力や政策決定における発言権に影響します。序列が高い大臣は、国家の主要な政策に関わる場面で発言力を持ち、総理の意思を実行に移すための重要な役割を担います。
特に、外交や経済政策では、序列が高い大臣の判断が国際的な影響を及ぼすこともあり、内閣全体の方針に大きな影響を与えます。
さらに、大臣として政策決定に関与した度合いの大きな政治家は、その後総理大臣へと出世していくケースがよく見られます。
国民の知名度が高くなり、与党内での発言力や影響力も強まるためです。
大臣の格付けランキング(総理大臣への出世数)
前述のように、内閣の政策決定関与の度合いや発言力の強さは、大臣の格付けに重要であり、そうした政治家は総理大臣へと出世していくはずです。そこで、戦後以降の47人の総理大臣経験者が務めた大臣職を、人数の多い順に紹介します。
なお、大臣職の名称は現在のものに合わせています。
1位:総務大臣(15人)
第一位は総務大臣でした。47人の総理大臣経験者のうち、実に15人が総務大臣を経験していました。
総務大臣を務めた後に総理大臣になった人
佐藤栄作氏、田中角栄氏、中曽根康弘氏、小泉純一郎氏など。
現在でいう「総務大臣」をしたこれらの方たちは全員、その前後に文部科学大臣や内閣官房長官などほかの大臣職も経験していました。
総務大臣は行政全般や選挙管理を管轄しています。内閣総理大臣は「行政のトップ」としての役割を担うため、その仕事につながる経験ができるのかもしれません。
2位:財務大臣(13人)
第二位は財務大臣でした。
47人の総理大臣経験者のうち、13人が財務大臣経験者でした。
※関連記事:歴代の財務大臣と大蔵大臣の一覧:財務大臣・大蔵大臣を長く務めた政治家をまとめて紹介
財務大臣を務めた後に総理大臣になった人
竹下登氏、宮澤喜一氏、麻生太郎氏など。
国民の生活の基礎となる経済を担う重要なポストですから、この職務の経験は内閣総理大臣になっても非常に役立ちそうです。特にバブル崩壊後は「財務の分かる人」が内閣総理大臣にふさわしいとされていたことも関係しそうです。
3位:外務大臣/経済産業大臣(11人)
第三位は外務大臣でした。
47人の総理大臣経験者のうち、11人が外務大臣や経済産業大臣の経験者でした。
※関連記事:歴代の外務大臣一覧:関税自主権回復の立て役者や首相経験者など外務大臣を長く務めた政治家をまとめて紹介
外務大臣か総務大臣を務めた後に総理大臣になった人
幣原喜重郎氏、吉田茂氏、大平正芳氏など。
外務大臣は外国との相談・調整を担う重要なポストであり、アメリカや中国・韓国など経済・軍事などで重要な相手国との関係を築く人も多いです。
外務大臣時代の経験や人脈が内閣総理大臣になってからも大きく役立ちそうです。
5位:内閣官房長官(9人)
第五位は内閣官房長官でした。
47人の総理大臣経験者のうち、9人が内閣官房長官経験者でした。
※関連記事:歴代の内閣官房長官一覧
内閣官房長官を務めた後に総理大臣になった人
鳩山一郎氏、小渕恵三氏、安倍晋三氏、福田康夫氏、菅義偉氏など。
内閣官房長官は政府の中枢で、内閣総理大臣とも近い位置にいます。特に政策が多様化していく平成以降はその重要性が増しています。
総理大臣になった内閣官房長官経験者9人のうち、平成以降に総理大臣になった人が5人もいます。
内閣総理大臣の省庁別大臣経験数一覧
前述のランキングに載せたものも含めて、内閣総理大臣になった人が省庁別に経験した大臣職を表にまとめました。
大臣職 | 大臣経験者数 (実人数) |
総務大臣 | 15 |
財務大臣 | 12 |
外務大臣 | 11 |
経済産業大臣 | 10 |
内閣官房長官 | 9 |
文部大臣 | 6 |
農林水産大臣 | 5 |
国土交通大臣・厚生労働大臣 | 4 |
防衛大臣 | 3 |
※関連記事:女性大臣:日本の歴代内閣での女性大臣の人数と女性が任命された大臣職を紹介
大臣の役割とは?各職務の違いと重要性
大臣と副大臣の違い
大臣は各省庁を統括し、政策決定や運営の最終責任を持つ役職です。一方、副大臣は大臣を補佐し、業務の一部を分担する役割を持ちます。
大臣が不在時や大臣の承認が必要な場合にも副大臣が対応することがあり、実務レベルでの業務遂行を担っています。
特に国会答弁や政策説明などの重要な場面で大臣に代わって登壇することも多くあります。
なお、国会答弁については以下の記事で詳しく解説しています。
国会答弁とは:国会答弁の目的や問題点を解説し、過去の有名な国会答弁を紹介(ロッキード事件、森友など)
大臣の主な役割と職務内容
大臣の役割は政策の立案・実行、各省庁の運営、国会への報告・答弁です。大臣は内閣の一員として総理とともに政府の方向性を決め、省庁の政策が政府全体の目標と一致するよう統制を取ります。
また、大臣は予算の配分を指示し、必要に応じて他省庁と協議し、国家戦略に関わる方針決定に携わります。
省庁ごとの大臣の職務
※関連記事:【日本の国務大臣】大臣の職務内容を省庁ごとに紹介
外務大臣
外交政策の策定・交渉の指導を行い、各国との関係構築に努めます。外交のトップとして、日本の国際的地位向上に貢献します。
財務大臣
国家予算の管理、税制や金融政策の指導に責任を持ちます。経済政策を担うため、経済の健全な運営と成長に重要な役割を果たします。
防衛大臣
国防政策の策定、軍備・防衛の指導を行い、国家の安全保障を確保することが職務です。安全保障会議に参加し、政策を策定します。
文部科学大臣
教育政策、科学技術の推進に携わり、教育の質や研究開発の促進を図ります。
総務大臣
総務大臣は、地方自治、行政管理、通信、郵政など幅広い領域を担当しています。地方自治体の支援、地域振興、情報通信の規制・管理、消防行政などが主な役割です。また、選挙管理や住民基本台帳制度の整備も所掌します。
内閣官房長官
内閣官房長官は、内閣全体の調整を担当し、内閣のスポークスパーソンとして記者会見で政府方針を説明します。また、首相を補佐し、重要な政策の調整・統括にあたるほか、緊急事態時の対応でも重要な役割を果たします。
農林水産大臣
農林水産大臣は、農業、林業、水産業の振興と管理を担当しています。農業政策の策定、食料供給の安定確保、農業生産の技術革新、林業資源の管理や水産資源の保護が主要な職務です。
国土交通大臣
国土交通大臣は、交通、建設、国土計画、観光などを所掌しています。道路や鉄道、空港の整備・管理、都市計画や防災対策、観光振興などに取り組みます。また、住宅政策や河川の管理も含まれます。
厚生労働大臣
厚生労働大臣は、福祉、医療、労働分野を担い、国民の健康や労働環境の向上を目指しています。医療制度の管理、労働基準の策定、年金や社会保険制度の管理が主な役割で、感染症対策も担当します。
防衛大臣
防衛大臣は、国防政策の策定と防衛力の維持・強化を担い、国の安全保障に関わる指揮を行います。自衛隊の管理や運営、国際的な防衛協力や災害救援活動の調整も職務に含まれます。
内閣総理大臣としての政策に大臣時代の経験がどのような影響を与えたか
日本の歴代総理大臣は、総理大臣になる前にさまざまな大臣職を経験しており、その経験は内閣総理大臣としての政策に大きな影響を与えています。
以下は、いくつかの具体例を挙げて説明します。
安倍晋三氏(第90代、96代、97代、98代総理大臣)
安倍晋三元首相は、内閣官房長官や自由民主党幹事長を歴任しました。
内閣官房長官時代の経験は、安倍氏のリーダーシップスタイルや危機管理能力に影響を与えました。
第一次安倍内閣(2006年 – 2007年)では教育改革や憲法改正の推進を試みましたが、辞任後の第二次安倍内閣(2012年 – 2020年)では経済政策「アベノミクス」に注力し、内閣官房長官時代の調整力を生かして安定した政権運営を行いました。
麻生太郎氏(第92代総理大臣)
麻生太郎元首相は、総務大臣(2003年 – 2005年)、外務大臣(2005年 – 2007年)、財務大臣(2008年)を歴任しています。
外務大臣時代の経験から外交政策に精通しており、総理大臣在任中は経済危機への対応に加え、外交政策の強化を図りました。また、後に財務大臣としての経験は、副総理としての経済政策や予算編成に大きな影響を与えました。
菅義偉氏(第99代総理大臣)
菅義偉元首相は、総務大臣(2006年 – 2007年)や内閣官房長官(2012年 – 2020年)を歴任しました。
総務大臣時代には地方分権や行政改革に取り組み、内閣官房長官としては政府の一体化を推進しました。
総理大臣としては、これらの経験を活かしてデジタル庁の設立や携帯電話料金の引き下げなど、行政改革やデジタル化を推進しました。
小泉純一郎氏(第87代、88代、89代総理大臣)
小泉純一郎元首相は、厚生大臣(1988年 – 1989年)、郵政大臣(1992年 – 1993年)を歴任しました。
厚生大臣時代の経験から社会保障制度改革に関心を持ち、総理大臣としては「痛みを伴う改革」を掲げ、郵政民営化や経済構造改革に取り組みました。
橋本龍太郎氏(第82代、83代総理大臣)
橋本龍太郎元首相は、大蔵大臣(1989年 – 1991年)、厚生大臣(1986年 – 1987年)などを歴任しました。
大蔵大臣(現財務大臣)としての経験は、総理大臣在任中の財政構造改革に影響を与えました。消費税の増税や行政改革を推進し、経済政策の方向性を決定づけました。
過去の大臣人事とその影響:内閣の歴史と格付けの変遷
歴史的に見た大臣ポジションの変化
日本の内閣制度は、内閣制度発足当初から役割の変化を遂げてきました。明治時代の内閣制度は軍部や貴族院の影響が強く、官僚主導の国家運営が特徴的でした。戦前は軍部大臣の発言権が大きかった一方、戦後は議会の意向を重視する形に移行し、平和主義の憲法下で大臣の役割が政策執行に特化する形に変わりました。
戦後の主要大臣の役割とその影響
戦後は特に総理大臣や外務、財務など重要政策に関わる大臣の影響力が増しました。高度経済成長期には経済産業関連の大臣が経済政策に貢献し、冷戦時代の外交政策では外務大臣が国際関係における役割を果たしました。また、社会保障政策が重要視される時代には厚生労働大臣の役割が増しています。
さらに近年では、内閣総理大臣に近くそのときの世論に対応する形で「内閣府特命担当大臣」も多数任命されるのが慣例となっています。少子化対策、食品安全、東北復興など。
省庁の大臣職を務める前にそうした内閣府特命担当大臣を経験している政治家も多く、内閣のなかでも格が上がりつつあります。
参考:政府広報オンライン
現在の内閣制度の特徴と課題
現代の内閣制度では、総理を中心とする指導力と省庁ごとの専門性が重視される傾向があります。しかし、総理官邸主導の政策決定が加速する一方で、議会や省庁間の調整不足が課題として指摘されています。
また、官僚組織との関係や、大臣の経験不足が政策の質に影響することもあり、各大臣の専門性や実務経験が問われるようになっています。
内閣総理大臣と他の政治家や与党内の調整を図る補佐官や、省庁間の調整を担当する秘書官の重要性が増しています。
補佐官や秘書官の役割、任命プロセスについては以下の記事でくわしく解説しています。
補佐官と秘書官の違い:補佐官や秘書官が誕生した背景からその役割の違いや重要性を解説
まとめ
いかがでしょうか。
歴代総理大臣が過去にどの国務大臣を経験していたかをランキング形式で紹介しました。
国務大臣職はどれも非常に重要な役割を担っていますが、総務大臣になった人の6割は総務大臣、財務大臣、外務大臣、内閣官房長官のいずれかを経験していました。
国務大臣としての経験は内閣総理大臣就任後の政策にも影響を与えており、国務大臣の経験はそれだけ日本の政治的かじ取りにも重要だと分かります。
※関連記事:歴代内閣総理大臣の出身地別人数
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